「都市伝説-ネット画像のウソ・ホント」

ディスカバリーチャンネルで12月17日に放送開始。しかし、第1回からこんなのか、といきなりがっかりだった。とうにタネがばれてる手品を、もったいつけて見せられてる気分だった。

番組でまず検証されるのは「呪われた踏切」の怪奇現象だ。場所はテキサス州サンアントニオ南部にある踏切、「事故の犠牲になった子供の幽霊が、停まっている車を押して、死出の道連れとばかりに踏切へと押し出している」のだという。
要点は3つ。
1・踏切の手前に車を停めてギアをニュートラルに入れると、ゆっくりとだが勝手に車が動きだす…上り坂なのに! そうして踏切へと近づいていき、線路を越えてしまう。
2・リアバンパーやブレーキランプにベビーパウダーを振りかけると、指紋が残されていることがわかる。
3-1・その踏切では1938年、スクールバスが踏切で立ち往生してしまったところに貨物列車が衝突して、26人の子供が死亡するという痛ましい事故があった。
3-2・犠牲者を悼み、周辺の通りには「シンディ・スー」「ボビー・アレン」など、その子供たちの名前が付けられている。

しかし、怪奇現象・超常現象に興味のある人間なら、1は「なんだよ、アレかよ。珍しくもない」とウンザリだろう。要するに「実際には下り坂なのに上り坂だと錯覚している」だけ。しかもこの番組、測量までして下り坂だと証明してみせるが、肝心の「なぜ上り坂だと錯覚するのか」にはノータッチ。検証としては不十分だ。

指紋もタネからいうと、幽霊が付けたものでなく、それ以前に人が付けた指紋。検証の際には、まずはじめにバンパーやランプを布できれいにふいていたが、その程度では指紋は消えない、ということ。

ここで興味深いのは、「いったい何者が最初に、指紋を発見したのか」という点だ。幽霊が指紋だけ残す、という着想は、全く斬新とまでは言わないが、ありふれてはいない。仮に踏切での「怪奇現象」の後でバンパーに付いた指紋に気づいたとして、それを幽霊と関連付けてとらえるだろうか? 

だから私はこう思うのだ。最初に「発見」した人は、それが人間の指紋だと知っていて、そして人の指紋は軽く拭いた程度では消えない(試剤を使えば採取できる)ことさえ知っていて、にもかかわらず「幽霊の指紋だ」と言い出したのではないか、と。死んだ人間よりも、生きてる人間の悪知恵(控えめにいえば悪戯心)のほうが恐ろしい。

まぁそれもつまらぬことだ。この番組で最も(というかほとんど唯一)注目された点は、実際にこの場所で事故があったということ。「上り坂なのに車が勝手に走ってしまう踏切」があって、そこにいつの間にやらありもしない「過去の大事故」の因縁が加わったのなら、どこにでもある話。しかしこのケースでは、大事故があった場所が、そのうえ「不思議な上り坂」だったのである。この、ふたつの複合が非常に興味深い。偶然にこの2要素が複合するものだろうか。

……と思っていたら、オイオイ。実際にスクールバスと貨物列車の踏切事故があったのはユタ州ソルトレイクサンアントニオの新聞も一面でそれを伝えたが、関連といえばそれくらい。なんという肩透かしだ。だがそれはそれとして、「何故この踏切で事故が起きたと誤解されたのか」は、一考の価値がある疑問点である。

以下はひとつの仮説だ。この踏切はくだんのスクールバスの事故以前から「車を吸い寄せる踏切」として知る人ぞ知る怪奇スポットだったのではないか。だからソルトレイクで事故が起きたとき、誰かが「ああ、とうとうあの踏切で!!」と早合点して、人に伝えた。そうして後年、その早合点が新たな怪奇現象を育てる肥やしとなった……。

事故以前に、車を吸い寄せる踏切だと知られていたか否かは検証は困難だろう。あるいは口承でしか話が存在せず、現代では検証できないかもしれない。もちろん、全く知られていなかった可能性だってある。現に番組では「50年代初頭から奇妙な現象が起き始めました」といっていた。ただ、それが正しいのであれば、今度は「何故その時期にうわさ話が生じた?」という疑問が起こる。

しょせんテレビ番組なので致し方無いとは思うが、都市伝説の検証というなら、「幽霊の仕業なのか否か」のレベルにとどまらず、「なぜ上り坂に見えるのか、誰が指紋を取ったのか、なぜこの踏切の事故だという誤解が生じたのか」にまで踏み込んでもらいたかった。残念。この番組、今後視聴を継続するか否かは微妙なところだ。

ひとつ書き忘れていた。通りの名はあたり一帯の地主が自分の孫の名を付けていた、とのこと。