箱庭のめだかと神様

めだかボックス」1巻購入。

めだかボックス 1 (ジャンプコミックス)

めだかボックス 1 (ジャンプコミックス)

めだかボックス」ってのは、劇中で言及されるとおり「目安箱」を指すと同時に、箱庭学園=学園という箱庭=ボックスのなかで繰り広げられる物語だと暗示しているのだな、と気が付いた。

しかし今回のエントリ、本題は「神のみぞ知るセカイ」のほうだったりする。先週から始まった新シリーズにおぼえていた微妙な違和感の正体が、「学園の外で起きているから」だと気付いたためだ。

思えば「神のみ」、実に周到に、慎重に、律儀に段階を践んでじわじわと学園という「閉ざされた世界の外」へ広がってきた。この作品は元来、「学園物」ないしそのサブジャンル「巨大学園物」だった。アイドルがいようと、主人公との接点はあくまで学園内にあった。

だが、連載が続くにしたがって、まず物語の根底を成す「駆け魂」の設定の延長で、ハクアの登場とともに地獄という異世界が登場する。さらに、ハクアのパートナーのおばはんを出すことで、神にーさまとは異なる「心のスキマ」の埋め方を提示する……。まずは「攻略対象」や「正ヒロイン」ではないキャラクターから、学園の外へと広がっていった。

そしてついに迎えた転換点が、幼なじみ・天理の登場だ。天理とのエピソードでは、設定上も異世界である地獄からの存在が、時間軸上の「異世界」である過去の物語と交錯。とうとう「キスをしたらそれまでの記憶を失う」との基本ルールに則らないヒロインが登場してしまった。そして、そのヒロインは「同級生」ではなく「隣人」なのである。短いドラマの中に、同じ学校に通う描写を入れてもいいようなものを、それが無かった。おそらくは避けたのだ、天理は「学園」の外の存在だと暗示するために。

さらにその後、今度は「番外編」という装いで、夏休みの田舎編が展開された。学園とも街とも離れた舞台で物語が繰り広げられた。それも、恋愛によって心のスキマを埋めるわけではない、従来のいずれとも異なる救済の方法によって、事態を解決している。

学園物が学園の外に進出していく、言うまでもなくそれは、ゲームの世界では神である桂馬が、現実に目を向けるようになる過程と二重構造なっている。相当に考えられた物語展開、構成だと評価されよう。

ぎっちょんところが、そこで微妙な目論見違いが起きた。結果で言えば「学園という箱庭の外に出る」ではなく「学園の外にまで箱庭の領域が広がった」になってしまったのである。「作品内(でのみ通用する)ルール」をどこまで遵守するか、そのさじ加減の難しさだろう。あくまで駆け魂にこだわったがために、「ああやっぱり駆け魂。作中の困りごとの根本にはそれしかない、ひどく単純なセカイ」(Arbos:male2009-09-09エントリ) という感想を招くこととなってしまった。

さらにその後、現在連載で進行しているラーメン少女スミレ編である。従来のフォーマットを外れた物語をひととおりやった後に、再びギャルゲーパターンへと戻ったのだが、従来のパターンとは決定的な違いがある。ご丁寧にも劇中で「学校と違って街は広いし、人間も環境も様々だ」「学校なら生徒同士は同じ世界にいるが、街中は違う」「まずはスミレの世界の登場人物として認められること」と言及されているとおり、学園外の出来事…学園という箱庭の外を舞台としているのである。

これにもまた、「困りごとの根本には駆け魂しかない」という泣き所はある。だが、じわじわと次第に外へと向かう、その先にこの作品の長編としての落着点があるのであれば、私は今しばらく見届けてみたいと思う。