『創』に「レイプレイ」記事

書店でたまたま見かけた『創』8月号に、レイプレイ事件に関する記事が載っていたので購入。いちおうチェックしている雑誌なんだけどそれほど熱心な読者でもなくて、どれくらい熱心でないかというと発売日を知らない程度に不熱心。この8月号も7月の初めには出てたみたいです。
閑話休題

<大見出し>「レイプレイ」事件で進むゲーム規制の動き
<サブ見出し>陵辱系ゲームはジャンル丸ごと規制に
<以下リード>
日本ではほとんど知られていない陵辱系アダルトゲームが突然イギリスで問題になり、与党議員の間で規制を求める動きが出始めた。これを機にゲーム規制が加速するのか。

<著者>杉野直也[コンテンツ文化研究会代表]

てな感じで、2009年2月12日のイギリスの新聞での報道から始まり、5月にアメリカの人権団体が動き、それを読売新聞が記事にしたこと、それを受けて公明党自民党が勉強会を開催したこと、そして5月28日のTBSの「陵辱ゲーム規制の方針をソフ倫が打ち出した」との誤報と、誤報をホントにした6月4日のソフ倫による陵辱ゲーム自主規制の正式発表まで、事の経緯がわかりやすくまとめられています。
特にソフ倫の対応については匿名ながらソフ倫幹部役員に話を聞いており、ひととおりの取材をした記事だといえるでしょう。要点は以下のとおり。

・5月28日のTBSの報道の時点では何も決まっていなかった(つまりTBSの誤報なのだが、抗議だとか何だとかは一切話題にせず。個人的にはこれが一番問題な気がするのだが)
・「表現の自由についてもうちょっと戦ったほうがいいという意見も出ておりますが」という質問に答えて「常にそういう意見があるのは知っています。(中略)ただ、我々は青少年の健全な育成と産業の発展を目指してますから、どうしても社会に受け入れられるような審査基準を確立していく必要があるんですね。(中略)社会との折り合いをつけながら進んでいかないと物事は進んでいきませんから」と模範的な回答。
・さらに「法規制については反対」「法規制を受けないように自主規制をきちっと行っていくことが自主規制団体の役割だと考えております」とこれも模範的な回答。

念のため書いておくが、ここらへんの役員氏の回答も、著者によるリライトの段階で大なり小なりベクトルがかかっている(そしてこれを引用する段階で私によるベクトルがかかっている)ことをくれぐれもお忘れなきよう。
で、そうした経緯のまとめ以外の著者の問題提議はどうか?
「この騒動での最大の問題点は、業界内外を問わず十分な検証や冷静な議論が行われていないことである。」として、以下の3つの問題点をあげています。「ポルノは本当に女性差別に繋がるか、どうか?」「国内のメディアは日本の実情を海外に正確に伝えているのか?」「創作物と児童ポルノを同列に扱っていいのか?」 まぁ、ここらへんは常識的で反論もツッコミもありません。
さらにこれにつづいて、ソフ倫の対応を一応は認めつつ、「だが、行き過ぎた自主規制によって産業や文化の芽が摘まれる危険性は十分にある」と、これまた常識的な警鐘を鳴らします。
ただね、この後に「行き過ぎた自主規制」の具体例が出てきたところで、ふいと醒めてしまった。

1954年、アメリカのコミックス倫理規定委員会が制定した倫理規定「コミックス・コード」は「いかなる場合においても、勧善懲悪でなければならない」「劣情を催させるイラスト・ポーズを描いてはならない」というものだった。この過剰な規制が厳格に運用され、ホラーもの、恋愛もの、といったジャンルを淘汰し、多様性を損なった結果、漫画業界そのものを衰退させた。

醒めてしまったのはまずひとつ、「半世紀も昔の話を具体例に挙げられてもねぇ」という気分。
そしてもうひとつは、「そういう規制の下で育った50年のアメコミには文化が無いとでも言うのか!?」という不快感(苦笑)。
そらまぁ多様性を失い、業界規模は縮小した(あるいは拡大しなかった)だろうけど、それはそれとして、アメコミにはその歴史があり、文化と呼ぶに足るものをさえ残しているわけで。著者の意図とは逆に、「自主規制がそれほどの問題になるのか」と思ってしまった。つーか私は「抑圧こそが新たな表現を生む」というテーゼも認めてるしな(「抑圧のみが新たな表現を生む」とは言わないし、新たな表現が生まれなければないで別にいいやとも思う)。
そのほか、記事の問題点というか食いたりない点は、他所の掲示板でも話題にした「そもそも何をもって『陵辱系』と定義するか」について一切触れていないこと。定義のあいまいさをとっかかりにして、「行き過ぎた自主規制」に話を転がすこともできただろうに、記事の導入でいきなり、

アダルトゲームは、大きく3つに分けることができる。
1つめは恋愛ゲーム。(略)2つめはハードポルノのゲーム版。陵辱系ゲームはこの中に含まれ、痴漢、強姦といった犯罪行為が題材にされている。3つめが女性向けで、男性同士の恋愛を描いたボーイズラブだ。

とおおざっぱに分類してしまい、以後「陵辱系」はそういうものがあるという前提で話が進められている。
もう一点、これはどう捉えたものかと判断に困るのが、『レイプレイ』の特徴として著者があげている要素。ひとつは3DCGを使っていることで、これはまぁいいんだけど、もうひとつは「中絶に触れている点だ」とくる。

ヒロインに対して妊娠・中絶を選べるようになっており、こうした設定は極めて例外的で、筆者もこの作品以外には知らない。言うまでもなく、中絶は社会的に極めてデリケートな問題であり、特にアメリカでは

云々と続く。それはごもっともなんだけど、実際にこのソフトを槍玉に挙げたアメリカの人権団体とか日本の与党議員は、果たしてそこに注目していたんですかね? そこがはっきり書かれていないので、著者の勇み足というか、それがどっち向きであれ印象誘導を疑ってしまいます。