忠魂碑・忠霊塔(出張編)

「出張編」でないほうは「明日は昨日の為にある 忠魂碑・忠霊塔」を参照。


場所はM市稲奈町の稲奈神社。石段の上り口の傍らという比較的目立つ場所に置かれている。「忠魂碑」の文字と、その横に小さく「陸軍大将周良一言」。


ざっとググったところでは、これに該当する人物は見つからず。陸軍大将は一覧があるのだが(日本陸軍大将一覧)、似た名前の人も無く、これは作者の創作だろうか? 何らかの元ネタはあると思うのだが……。

という前フリにはあんまり関係無く(思いがけず行き当たったのが嬉しくてネタにしただけ)。「それでも町は廻っている」(通称「それ町asin:478592604Xasin:4785927070asin:4785928271)でお馴染み石黒正数の短編集「探偵綺譚asin:4199500669」を購入した(ってモタモタしてる間にもう去年の出来事…)。
2003年〜2007年に様々な雑誌で発表された作品を集めたもので、「作者の多彩な魅力を満喫できる全11作品+αの傑作短編集!!」という解説は概ね正しい。雰囲気は、といえばこれも押井守の推薦文を引用すれば事足りる。

絶望は語らないが あえて希望も描かないし
要するに駘蕩たる日常なのだ
というには妙な焦燥感がつきまとうのは何故なのだろうか
女の子可愛いから騙されてるのかもしれない

 
表題作の「探偵綺譚」は、歩鳥と紺先輩の原形となったキャラによる、ホラー色含みのミステリ。上の忠魂碑もこの作品の一場面。「それ町」の後で読むと、シリアス基調の歩鳥に違和感を禁じえない(苦笑)。その他の要素も含めて、やや大人しくこぢんまりとまとまってしまっている感じ。中盤、紺先輩のケガの真相が明かされるあたりで、結末も概ね予想できるし……。何にせよ、これが礎のひとつとなって「それ町」が生まれたかと思うと感慨深いものがある。

「スイッチ」は、星新一風味のショートショート。なかなかの佳作。

「14歳 性の相談室」は、石黒正数が「チャンピオンREDいちご」で読み切りを描くとこんな感じ……って、それそのものか。作者に自覚があるのか無いのか、シニカルさが物語内ではなく掲載誌に向いてしまっているような……。それでも攻撃的・冷笑的でないのが美点といえる。

「薄暗い穴の底から」は、石黒正数が「ガンガン」系で読み切りを描くと以下同文。

「南国ピクシー」は、石黒正数パチスロ雑誌で読み切りを描くと……ぶはっ!! とりあえず2頁目で吹いた。ありがちな「○○を知らない人が想像だけで○○マンガを描いてしまいました」パターンだが、最初の一撃はかなり強烈。

「血の連判状」は、石黒正数が時代劇マンガ誌で読み切りを描くと……ってこの人、いろんな雑誌でちょこちょこ描いてるんだな……。主人公がまんま歩鳥。基本はスラップスティックだが、クスグリ程度の一発ネタが最後に歴史物としてのオチになるのが綺麗。

とまぁ、「作者の多彩な魅力を満喫できる」というより「作者の多芸さを満喫できる」というか、掲載誌のカラーと作者の個性とのぶつかり合いが面白い短編集でした。

ワタクシ的なベストは「スイッチ」と並んで「カラクリ」。突拍子も無いアイデアを前面に押し出し、すちゃらかな台詞芸で間を持たせつつ、人の死をあっけなくしかしじんわりと描写し、最後に主人公はわずかながら成長する……。石黒正数作品が一般に評価される要点をまとめたような作品。でも微妙に原作付だったり。