タミフル4:6

水が半分入ったコップを見て「まだ半分残っている」と思うか「もう半分しか残っていない」と思うか? そんな話を連想した。
というのは、厚生労働省研究班が行ったタミフルと異常行動に関する調査結果を報じた記事のこと。中日新聞「4割がタミフル服用せず 異常行動の137人調査」との見出しを掲げ、読売新聞は「インフルエンザ「異常」6割タミフル服用」と見出しに書いていたのだ。ニュースソースは同一なのに(記事内容も概ね同じ)、全く正反対なのが面白い。
他紙をみると、日本経済新聞毎日新聞タミフル処方中止、「異常行動」に増減なし」「<タミフル>異常行動との因果関係認められず」と、数字は出さないが「無関係」を印象付ける見出し。朝日新聞「異常行動137人もタミフルの影響不明」と、やや慎重だ。
そんななかで突き抜けていたのが産経新聞で、見出しはタミフル 10歳未満でも高い割合で異常行動」と極めて独自色が強い。内容も独特で、今般の研究結果から「異常行動と副作用の因果関係が疑われるインフルエンザ治療薬タミフルについて、10歳未満の子供にも、多くの異常行動が認められた」との結論を導き出す思考のアクロバットにはただ感服するばかり。近年まれに見るウルトラCクラスの妙技だ。嘘は決して書いてないんだよな、極々一部にクローズアップしているだけであって。

などという嫌味はさておく。まずこれらの記事をネット上でひととおり読んだ限りでは、どうも厚生労働省の調査自体が曖昧な感じだ。全国調査とはいえサンプル数がわずか137件では……。大体、「インフルエンザと診断された患者の総数」と、そのうち「タミフルを処方された患者数」無しでは何もいえないのでは? 特に後者から導き出される、「タミフル処方患者のうち、異常行動を起こした患者の割合」は極めて重要だろうに。

あまり意味は無いが、私が採る推測も書いておく。「『錯乱』がインフルエンザの症状であり、『異常行動』がとれるのは、ある意味タミフルの副作用」との見方だ。錯乱していても従来の患者の多くは体が動かせなかったので、異常行動は目立たなかったが、タミフルが身体症状を緩和したため、体が動くようになった=異常行動を取れるようなったのではないか。私には根拠は示せないが、同様に推測する専門家も少なくないようだ。くだんの産経新聞の記事にも「タミフルが直接、脳に何かを起こす可能性は少ないが、異常行動のリスクを高める因果関係はグレー」(内山真・日大医学部教授)とある。

この「タミフルは直接の原因ではないが、しかし異常行動を増やしている」という見方は、4:6という微妙な割合にも合致すると思う(ただし念のため重ねていうが、この4:6は鵜呑みにはできない)。