小説のストラテジー

小説のストラテジー

小説のストラテジー

要するに私はファインアートが嫌いというか、ファインアートを有り難がる人間が大嫌いなのだ、と確認できたことが収獲。アートの快楽とやらがわかる人間同士、その内輪に閉じた世界で「うん、うん」とうなづきあっているなら結構なんだがね。
10代の私は、小説(及びその他の文章)の論旨や主張、いわゆる「行間」を直観する能力をもっていながら、しかしアート的な価値観を「気持ち悪い」と拒んだ。アートの感覚を共有しようとは思わなかったし、できなかっただろう。
そうして、印象論−規範批評−美学をバックボーンとする古臭い文学的価値観の中にあってはアンビバレンツを抱えていた私にとって、テキスト論−構造主義ポスト構造主義という考え方はまさに福音だったのだ……と、この本を読んで自分の原点を思い出すことができた。これほどのものを得られたのだから、十分に価値ある一冊だと評価できよう。