/日本沈没と70年代、そして現代

未だに昭和30年代ブームを引っぱる雑誌もみられるものの、世間はそろそろ「その次」に向かって動き出しているようにみえる。一度は企画自体が沈没した『日本沈没』(公式ホームページ)のリメイクがここにきて浮上したことは、70年代ブームの予兆と捉えたい(参考・「2006年流行予測SIDE A」)。製作・配給は東映。昨年、昭和30年代ブームの最大の(そしておそらく最後の)波となった『ALWAYS 三丁目の夕日』でひと山当てた映画会社であることにも、偶然以上のものが感じられる。

映画公開に先駆けて発売されたアンソロジーコミック『日本ふるさと沈没』(ISBN:4197701322)の冒頭、『日本沈没』解説にはこう書かれている。

石油ショックにゆれる1973年――出版されるや、見る見るベストセラーとなった『日本沈没』。精緻な科学的考証と、戦後日本を再考する物語は、高度成長期が一区切りして、混迷のきざはしが窺える国情のなか、同時期に刊行された『ノストラダムスの大予言』とともに、終末論ブームの火付け役ともなった。

70年代という時代は、やはり終末論(そしてそれと表裏一体の破滅願望)をカギにして語られるべきなのだろう。

ならば、2006年の「日本沈没」に見られる(=「日本沈没」を観る)時代性とは如何なるものだろうか。やはり、世界の終わりに対して恐怖と憧れを抱いている? それとも、完全に絵空事として距離をおいて楽しむ時代なのか? そこで興味深いのは作り手の意識の持ち方だ。2006年07月10日付アサヒドットコム記事『「日本沈没」33年ぶり、大震災経験踏まえリメーク』中にこうある。

樋口真嗣監督は小学2年の時に旧作を見て、映画に興味を持った。試写会のあいさつで、「前作は沈む日本から逃げるという話だった。今回は恐れずに立ち向かう。どういう姿勢で向かっていけばいいかを願いを込めてつくった」と話した。

この言が単なるセールストークでないとするなら、単なるリメイクではない、2006年なりの「日本沈没」を作ろうという確かな意気込みが感じられる。70年代の終末論を踏まえたうえで、そこに「立ち向かう」物語になるのならば、そして、この映画を端緒にして70年代ブームが起こるならば……。それは過去にひたすら黄金時代を求めただけの昭和30年代ブームとは、大きく性質を異にするものとなるだろう (ま、もちろん、70年代ブームなんてこないのかもしれないけどね)