サマー/タイム/トラベラー

サマー/タイム/トラベラー (1) (ハヤカワ文庫JA)

サマー/タイム/トラベラー (1) (ハヤカワ文庫JA)

読了。まともな長編小説を読むのも久しぶりだが、実に面白い…というか手の込んだ小説だった。大事件が起こるのは下巻に入ってからという趣向で、この巻は淡々と進むのだが、「あらかじめ失われた未来」に確実に向かっていくからこそ、「今」を執拗なまでに丹念に描写しているのだろう。
いや、正しくは「今」ではなく、語りの時点は事件が起こった数年後とされている。この「語り手の位置」の問題をどうオトすかも気になるところで、並の作家ならば単なるムードづくりでしかないだろうが、新城カズマであれば……語りの時点に物語が追いついた先に大仕掛けを用意しているのではないか? という期待もふくらむ。
また、これまでのところ薬味ほどの働きもしていない歴史地図が、最終的にどんな意味を持つのかも気になるところだ。
この作品に致命的な欠点があるとすれば、それは、過去の時間旅行ものを山ほどピックアップしていながら、その中にとり・みきの「カットバック」が入っていないことだ。ほんの数秒だけタイムトラベルをしているなんて描写あたりは、随分と似通っているのになあ。
山の音

山の音

あっそれと、大野安之の『ゆめのかよいじ (ヒットコミックス)』は時間旅行物じゃないだろ!!