マスコミの嘘を見抜く#1

いつもとは趣向を変えて、今日明日は真面目にメディアリテラシー・トレーニングの実践を。新潟中越地震で発生した上越新幹線脱線事故に関する「事故車両は旧型で、重量があったためにからくも転覆を免れた。軽量化の進んだ新型の車両は危険だ」というトンデモな説(以下「軽量車転覆説」と表記)の出所がようやくつかめたので、新聞のペテンをどう看破するかを書いておきます。
まず前提として ・重量があるほど慣性も大きくなり制動距離が長くなる=脱線・転覆の危険が大になるのでは? ・転覆するしないで重要なのは総重量よりも重心位置では? ・ぶっちゃけ、時速200kmとM7.74の直下型地震のコンボの前には少々の重量差なんて無関係なのでは? といったあたりから軽量車転覆説に疑問を抱いておいてください。専門的な知識がなくともペテンは容易に看破できますが、疑問を抱かないことには始まりませんので。それでは、毎日新聞のこの記事を注意深くお読みください。
【新幹線脱線事故 軽量新型車なら転覆 数分後なら正面衝突(10/25)】
http://www.mainichi.co.jp/osaka/jishin/news/0410255002.html
またはhttp://www.jisin-110.com/n041025.html
……ま、そういうわけです。え? 何がそういうわけだって? ではもう一度。
「同社は「この4両が列車全体の重しの役割を果たし、前後の車両の揺れを最小限に食い止めたのではないか」と分析。中央部の車両も大きく揺れていた場合、脱線転覆していた可能性が高いとみている。」
と、ここまでがJR東日本の発表。「重し」という喩えはしていますが、重量は問題にしていないのです。記者はこれだけでは面白くないと思ったのでしょう……あ、いやいや、もう少し原因を掘り下げようとジャーナリストの使命に燃えたのでしょう、名前を出せないような「JR関係者」氏(なぜ隠す必要があるのでしょう?)のコメントをもらいます。
「JR関係者は「たまたま古いタイプの重たい車両だったため、車両が地震の揺れで跳ねなかった」と指摘する。」
この出所の怪しい発言を、あたかもJR東日本の発表内容を補うものであるかのように錯覚させるつなぎ方をしています。発言の信憑性の低さをカバーする単純なテクニックですが、記事の流れは自然で、さすがはペテンの、もといベテランのモノ書きだと感心します。毎日新聞はこの軽量車転覆説が気にいったとみえて、その日の解説記事でも重視。説の出所や根拠を明らかにせぬまま【新潟中越地震 検証・新幹線脱線 軽量化に危うさ潜む(10/25)】http://www.mainichi-msn.co.jp/search/html/news/2004/10/25/20041025ddm003040101000c.htmlとまで題しています。こうして、ひとつの珍説が有力な説へと育っていったのでした。
地震関係の記事をまとめたサイト「地震100番」http://www.jisin-110.com/で見る限り、毎日新聞以外には重量と転覆との関連を報道した新聞はありません。つまり、無名の「JR関係者」氏以外に軽量車転覆説を唱えた人はいないのです。 (続く)