どの口が言うか。日経ビジネス記者のサギ的な「ガチャ」批判

最初に書いておくが、私はWeb経由でデータが提供されるだけのガチャには全く興味が無いし、運営側を擁護する義理も無いし、この場では批判も置いておく……「彼らのソーシャルはつまりトレーディングだ」とひとつ皮肉は書いておこうか。



日経ビジネスオンライン、2012年6月5日付の「記者の眼」に『「ガチャ」と「クルマ」から見えるもの 企業と人間の「当たり前」はなぜ違う』と題する記事が掲載された。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/opinion/20120604/232909/
執筆者は日経ビジネス記者・広岡延隆。「経済記者という仕事をしていると、折に触れて考えさせられるのが「企業とは何か」という命題だ」から始まるこの記事、主題は

「尊敬を勝ち取る企業」かどうかが、競争力に大きく影響する、というものだ。尊敬という言葉は少々分かりにくいが、個人の感覚から見て「当たり前のことをできる企業」という意味で使っている。

というもの。その「当たり前のこと」ができている企業の例として、トヨタをはじめとする自動車メーカーを上げているのはマァいいだろう。
問題は後半。「こちらは「当たり前」の対応が、今日時点では、できていないという印象を受ける」と言って「インターネットとゲーム産業」を槍玉にあげるくだりだ。

今年5月、消費者庁ソーシャルゲームと呼ばれる携帯電話向けゲームで流行していた「コンプリートガチャコンプガチャ)」と呼ぶビジネスの手法が、景品表示法(景表法)という法律に抵触すると判断した。

たくさんの報道がなされているので、問題の詳細はそちらをお読みいただきたい。簡単に言えば「ガチャ」とはソーシャルゲームなどと呼ばれる携帯電話向けゲームで、ゲーム内で使える貴重なアイテムやキャラクターカードの販売にくじびき要素を入れたものだ。

購入ボタンを押しても、本当に欲しいものが当るかは運次第。外れても「次こそ貴重なカードが当たるのでは」と考えた消費者が、ついついもう一度と課金してしまう。1回当たりは100円といった少額だが、携帯電話のボタンを押すだけで簡単に課金できるから、十万円以上をつぎ込む人も出てきて、中には未成年の事例もあったという。問題になったコンプガチャは、一定枚数のカードをガチャを通じて集めて揃えると、更に希少なカードがもらえるといったもので、課金額が大きくなりやすい特徴がある。

誰でも持っている携帯電話の母数の大きさ、あまりにも実感なくお金を使える仕組み、ついつい熱くなりやすいゲームならではの面白さ。これらが相まって、問題が拡大した。

ひどい詐術である。
「法律に抵触すると判断した」に続けて「ガチャ」とは何かを解説し、「十万円以上をつぎ込む人も出てきて、中には未成年の事例もあったという」と書くことによって、あたかも「ガチャ」自体が違法であるかのように印象付けている。
実際には、違法と指摘されたのは「コンプガチャ」であるにもかかわらず。
記者はそれをわかっていて、読者をペテンにかけているのだ。「中には未成年の事例もあったという」とまで煽り立てた後で、言い訳のようにそっと「問題になったコンプガチャは」と書き添えている。
「問題になった」じゃないだろ、そこは「違法とされたコンプガチャは」だ。
記者はそんなことはわかっていて、しかし「ガチャ」自体を叩きたいがため、あえて話を前後させている。ウソを吐かずに読者を騙す、実に小狡い手法である。

不幸中の幸いは、少なくとも業界全体で自主規制を図る枠組みができたこと。
(略)
今後、コンプガチャはもちろん、ユーザーを過度に誘引させるようなコンプガチャに類似するものも、6月30日までにすべて取りやめるという。
(略)
 6月30日という期限は、消費者庁が7月1日から行政処分の対象とすることを決めたことと符合する。だが、そもそも違法性があると判明した時点で、プラットフォームを持つ事業者はもちろんゲーム開発業者も含めて、全社即刻やめるのが「当たり前」ではないか。

はいはい、ご高説ごもっとも。しかし、「どの口が言うか」である。
現実的に言って、「十万円以上をつぎ込む人」や「未成年の事例」は、コンプガチャが無くなったガチャでもなお起こりうる話である。その点において、ガチャ自体が社会問題だと槍玉に上げることは、たぶん正義の側だ。
しかし、正義ならばペテンをかましても良いというわけはない。それが「当たり前」である。この記事もまた「当たり前」のことができておらず、従ってこの広岡という記者を尊敬することはできない。
ここで「日本経済新聞社」ではなく記者個人について言うのは、コンプガチャ事例ひとつをもって「インターネットとゲーム産業は」対応ができていない、と書く記事に対するイヤミである。まぁ本筋でないので小さい文字で。