赤マルジャンプ2006SUMMER

『DISPENSER』内水融
短編は巧い内水融、との定評は今回も裏切らなかった。基本的には「悪人の嫌がらせを受けるヒロインのもとに現れた、飄々とした頼りない流れ者。その男は実は伝説の○○だった」という、手垢にまみれた「るろ剣」パターン(源流は時代劇か西部劇?)で新味には欠ける。
しかし、主人公がヒロインの元に行き着くことが偶然ではないこと、それが全く無理なく三重の救済(客足の復活・悪人退治・父の雪辱)となること、伝説の将官が今は放浪の身の理由付け(読切版『賈允(カイン)』の焼き直しだが「無責任な奴め!」という決定的なツッコミ所があったカインに比べて隙が小さい)、「本気を出せば無敵」という安易さのない、薬師の職能で敵を圧倒するクライマックス等々、中身が十分に練り込まれているため、「使い古されたパターン」が「王道」へと昇華されている。
「撤退戦でしんがりを任される将は最も強い」などのうんちく要素も、小中学生という本来の読者層には相応しいレベルだろう。悪人たちの動機の弱さがかなり気になったが、これはまぁ短編の限界か。連続物としても展開可能な設定なので、読切シリーズとしてもう何本か読んでみたい……そろそろ連載での成功作も見たいんだけどね……。

太臓もて王サーガ外伝 〜変人偏屈列伝大亜門
最大のウリだった荒木飛呂彦の絵は一枚きりで、やや拍子抜け。ボーボボデスノートのコラボではなく、ボーボボに遊戯が客演したときのほうを思い出せばわかりやすいか。でも、あれは読者には全く予想外だったからネタとして機能したのであって、さんざんアピールしておいてこれでは、やはり期待外れ感は禁じえない。
ただ、絵そのものは色んな意味ですごいし、あの台詞を重ねたのも巧い。全体としても「太臓」の番外編としてふつうに面白いので、ファンなら買って損はないはず。週刊連載も休まずに描いたのだがらまずはお疲れ様である。大亜門の中のあの人が一晩でやってくれたのだろうか?

べしゃり暮らし
匠の仕事。きそばAT優勝〜ロッテンマイヤーズとの対決と展開するかと思われた設定を、短編の枠のなかで違和感無く畳んだのがすごいなぁと、まず変なところに感心してしまった。校長の採点は意外にして自然だし、彼らの2度目のステージは描かないことによって、圭右の成長を強く印象付けている。
「全アドリブでピンチを乗り越える」という展開などは予想の範疇だが(他の展開ありえないし)、それを「原点」へと結びつけたのは完結編に相応しいまとめ方だし、「ふたりが楽しんでいるから観客にも面白い」と、以前の問題提議に対する回答も描ききった。今回もプロであるロッテンマイヤーズから「こんなモン漫才か…?」と非難が入るのも小味が利いている。
不満があるのはやはり上妻父の扱い。この人をめぐる話は過去話含めてどうも最後までピンとこなかった。結局は圭右にとってさしたる障害になってないし……。連載終盤の展開から考えるに、これは打ち切りの影響ではないんだよな。うーん。
第2部は他誌に移るとの噂だが、ここまで描ける作家を失う、というのは『週刊少年ジャンプ』にとって大きな損失ではなかろうか。勢いや一発アイデアだけでない作品は、「マンガに求められる水準」を示す上でも必要だと思うのだが。