マタギ語り

6月初めの東北旅行の話の続き。
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阿仁合の次に向かったのは阿仁マタギ駅。同じ阿仁町、同じく阿仁で名前が始まる駅だが急行でも24分かかる距離(9:17-9:41)で、まったく別の土地という雰囲気だ。そしてぶっちゃけ秋田内陸縦貫鉄道沿線の観光スポットというと、阿仁マタギ駅が最寄りの熊牧場、そして「マタギ学校」くらいしかないのであった。

マタギの世界を体感しよう!!
森吉山麓マタギのふるさと。打当温泉の湯につかりながら、あなたも一歩、マタギの世界に足を踏み込んでみませんか!? マタギ学校ではさまざまなプログラムをご用意して皆様のご参加をお待ちしております。
 
マタギ継承者が明かす「マタギ語り」
約30〜40分/講師1名
現代マタギが狩猟の体験話、クマの生態、知恵比べ、などなど、地元弁で語ります。猟の話から自然の威厳、尊さ、ありがたみ、自然との共生を学びます。質問の仕方でどんどんマタギの世界が広がります。
http://www.mataginosato.com/school.html

これが要予約なのはいいとして、講師料1名:5,250円という結構なお値段。「1講座20名まで」と注釈があるくらいで、ふつうはグループ旅行で行くようなものなのだが、まぁ阿仁に行くことなど二度とないだろうと思い切って申し込んだ。
場所は「打当温泉 マタギの里」という温泉ホテルで、阿仁マタギ駅が最寄りといっても徒歩では30分以上もかかる。なので施設に車での送迎を頼むという私には異例の移動となった。

マタギの里館内、囲炉裏のあるそれっぽい部屋で待つことしばし、現れたのは眼鏡をかけたスーツ姿の温厚そうな初老の紳士。「よくマタギらしくないと言われます」とおっしゃるが、まぁまさか猟師姿で来るとも思っていなかったし、一見してらしくないというのが逆に「現代の本物」を感じさせてくれる。ただ、格好や表情はいいとしても、名刺を差し出されたときにはさすがに「らしくないナァ」と思ったり。
お写真も撮らせてもらったが、勝手にUPするわけにはいかないので代わりに関連記事のURLを貼っておく。

読売新聞GINZA通信北秋田に残るマタギの暮らし」
http://www.yomiuri.co.jp/otona/pleasure/ginza/110617_01.htm

私がお話をうかがったのは鈴木英雄さんではないが、場所は上のリンク先にある写真と同じ。お話の内容も、まあ大筋は同じ(苦笑)。まぁ、違ったらかえっておかしいよね。
というか、単にマタギの生活だの狩りだのを知りたいというなら本などを読むだけで十分だろう。しかし例えば集団狩猟についてそのプロセスを追うように説明されると音声言語ならではの迫真感があるし、「セコなれー」とか「ショウブ、ショウブ」とかいったマタギ独特の掛け声が「本物」の声で聞けたのだから貴重な体験だった。
また、上記リンク先の記事は「自然と一体になった生活の原点」とか「雪山に強い「ニッポンのマタギ」」とか、伝統の狩猟民族としてのマタギを強調しているが、私が強く関心を抱いたのはむしろ伝統の衰退のほうだった。熊が保護の対象になると狩りもままならなくなり、「害獣駆除」の名目が立つときにだけ狩りを行うようになったが、今はそれもできなくなった……とのことで、現代のマタギの現実が感じられた。
今のマタギが最後の世代になることを思えば(マタギ専業の人は既にいない)、5000円超というのも決して高くはなかった……んー、やっぱりちょっと高いかな。
お話をうかがった後は「マタギの里」併設のマタギ資料館を見学。かなり規模の小さな施設ではあるものの、展示物、解説とも充実しており、近くを訪れた際にはぜひ立ち寄って欲しいスポットだ。

しかしこの「マタギの部屋」の再現は少々仰々しくわざとらしくて、先ほどの「マタギ語り」の現実感との落差にめまいを覚えてしまった。

なお、熊牧場はマタギの里から更に遠く、列車の時間の都合があるため見学に行けなかった。このあたりはやはり自家用車での観光がふつうで、秋田内陸線に乗ってくる観光客はあまりいないのではなかろうか。