イプシロンの失敗

装甲騎兵ボトムズ』のシリーズ構成というと、1クールごとに舞台をガラッと変えたことがよく知られる。美術はもちろんのこと戦い方(=動き)も変わるから見た目の新鮮味が維持されるし、ストーリー的にも節目が出来てダレることなく1年という長丁場を乗り切った。シリーズの途中で舞台が変わるアニメは多いけれど、きっちり1クール刻みなのはちょっと珍しいだろう。

あまり指摘する人がいないがそこにひとつ、舞台を変えつつブツ切れの印象にしない、さり気ない工夫がある。敵役として配された、PSに深く関わるサブキャラの配置だ。クールをまたいで登場し、しかし入れ替わっていくのである。

1〜2クールはボロー。素体=プロトワン=ファンタムレディ=フィアナのお目付役として登場し、「PSをまともな人間に戻す方法はない」と言い残して死亡する。

2〜3クールはイプシロン。第2のPSとして登場し、フィアナをめぐる恋敵の役目も果たしつつ、最後にキリコに向かって「お前はPSだ。でなければ私の立場が無い」と言い残して死亡する。

3〜4クールはアロンとグラン。フィアナが秘密結社の手から逃れた段階でPS研究者として登場し、イプシロンをバックアップしながら天然PSと疑われるキリコにも興味を向けるが、そのキリコに使われる立場になって死亡する。

さらに、1クールから飛んで4クールにキリィ。1クール目ではPS(プロトワン)追跡を指揮する立場だったのが、4クール目ではキリコを誘導する立場となり、その任を果たして死亡する。

こうやってストーリーに継続性を持たせているのだ。また、書き出して整理すると、この「クールまたぎ」と入れ替わりには、物語の中心をフィアナからキリコへと次第にずらしていく働きがあったことにも気付く。

かくも巧妙に構成された『ボトムズ』なのだが、ことイプシロンの扱いに関しては、これでよかったのかとの思いもある。主人公・キリコの恋敵であり、戦闘力も当初はキリコをはるかに凌駕していた。3クール目では敗北の恥辱に塗れた復讐者であり、復讐を果たさんがために成長していく好敵手である。つまりはライバルキャラなのだから、本来はボローやアロン・グランと同列に位置付けられるキャラであってはいけないはずだ。

高橋良輔監督は後に、イプシロンを4クール目まで生き延びさせて、ワイズマンの前で後継者の座をかけてキリコと戦う展開にしても面白かったかもしれない、と語っていたが(うろ覚え)確かにそういう『ボトムズ』も観たかったと思わされる。